加齢による白髪の発生メカニズムについて、NYUランゴーン・ヘルスの研究を中心に示された内容をまとめると、白髪は単純な「色素細胞の減少」ではなく、毛包内部でのメラノサイト幹細胞(McSC)の挙動異常が重要な要因として浮かび上がっている。
2023年のNature論文では、McSCが本来持つ区画間を移動する特異な性質が失われ、毛包バルジ領域に滞留してしまうことが確認された。McSC は通常、毛包の複数の区画を行き来しながら成熟度を変化させ、色素細胞へと分化できるタンパク質を獲得する。
しかし、バルジ領域に固定されると、色素細胞への再生を促すWNTシグナルが存在するジャーム領域へ戻れなくなり、結果として新しい髪に色を供給できなくなる。移動性を保ったMcSCは色素産生能力を維持する一方、移動性を失った細胞が白髪化の直接的な原因となる。
ただし、こうしたメカニズムがそのまま人間に当てはまるかは未解明であり、2026年のレビュー論文では、白髪は細胞位置だけでなく、DNA修復能力の低下、酸化ストレス、細胞老化、シグナル伝達の変化、毛包ニッチ(幹細胞の微小環境)の変質など複数の要因が絡む複雑な現象であると指摘されている。
マウスと人間では毛周期や毛包構造、寿命が大きく異なるため、マウスで示された「渋滞メカニズム」が人間で安全かつ効果的に操作できるかは不明である。最新のヒト単一細胞研究では、白髪化した毛髪でメラノサイトや前駆細胞の減少が確認されているものの、加齢した人間の頭皮で McSC の移動性を回復させれば色が戻ると証明されたわけではない。
臨床的にも、通常の加齢性白髪を逆転させる治療は存在せず、皮膚科の専門家合意や米国皮膚科学会(AAD)のガイダンスでも同様の見解が示されている。現在進行中の臨床試験は、白髪の外観改善を目的とした化粧品やmTOR阻害剤の研究などに限られ、加齢性白髪の生物学的逆転を示すものではない。
今後の研究課題は、人間の毛髪でMcSCの固定化がどれほど重要なのか、移動性を安全に回復できるのか、そしてそれが実際に色素産生の再開につながるのかを明らかにすることである。
A Study Says Gray Hair May Be Reversible
出典:POPULAR MECHANICS
https://www.popularmechanics.com/science/health/a71839423/gray-hair-could-be-reversible-science
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用語解説
【メラノサイト幹細胞】
メラノサイト幹細胞は、髪や皮膚の色を作るメラノサイト(色素細胞)を補充する役割を持つ幹細胞で、毛包の中に存在している。普段は休眠状態だが、毛の成長サイクルに合わせて活性化し、色素細胞へと分化して新しい髪に色を供給する。加齢やストレスなどによってこの幹細胞が正常に働かなくなると、色素細胞が作られなくなり、髪が白くなる。
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