骨格筋は体を動かすための組織であると同時に、マイオカインやエクソソームといった多様な物質を分泌する“分泌臓器”であり、全身の健康維持に深く関わっている。
前重伯壮准教授は理学療法士としての臨床経験を背景に、骨格筋が放出するエクソソームに注目し、その中に含まれるマイクロRNAやタンパク質などの情報から筋肉の代謝状態や健康状態を把握する研究を進めている。
エクソソームには抗炎症・抗微生物・抗癌作用があり、前重准教授はハーバード大学で、骨格筋由来エクソソームがマクロファージの過剰炎症を抑え、前立腺がん細胞の増殖を抑制することを発見した。
筋肉の代謝が低下するとエクソソームの抗炎症効果も弱まり、動脈硬化や認知症、肥満、糖尿病などのリスクが高まるため、エクソソームを指標に筋肉の質を定量化することが重要になると指摘する。
現在の筋肉評価は量や硬さなど外形的指標に限られるが、生物学的情報が得られれば、個々の状態に応じた運動・栄養指導が可能になる。
さらに、エクソソーム分泌は強い運動で増えるという特性があるので、運動が難しい高齢者や患者でも利用できるよう、電気刺激や超音波による物理刺激療法の開発も進めている。
将来的には子どもの骨格筋状態を評価するバイオマーカーを確立し、健康診断に骨格筋エクソソーム検査を導入することを目指している。薬に頼らず運動と栄養で健康を支えるという理念はSDGsの目標にも合致し、神戸大学の恵まれた研究環境のもと、国際共同研究も積極的に展開している。
骨格筋という臓器の可能性を探る試みは長寿という視点からも大変期待の持てる分野といえそうだ。
用語解説
【エクソソーム】
エクソソームは、細胞が分泌する直径100nmほどの小さな袋状の粒子で、中にはマイクロRNA・タンパク質・脂質など多様な分子が入っている。細胞同士の情報伝達を担い、炎症の調整、免疫機能、代謝の制御などに関わる。骨格筋が放出するエクソソームは抗炎症作用を持ち、全身の健康維持に重要とされる。
運動することだけでなく、“分泌臓器”としての筋肉に着目
出典:神戸大学
