悪性胸膜中皮腫に対し、老化メカニズムを逆手に取った新しい治療戦略が現実味を帯びてきた。
広島大の研究チームは、ヒトが本来持つ多数のマイクロRNAの中から、がん細胞に強力な細胞老化を誘導する「miR‑3140‑3p」を特定し、この分子を補充する核酸医薬「MIRX002」を開発した。老化を“止める”のではなく、がん細胞に意図的に老化スイッチを入れて増殖能力を奪うという発想は、近年の老化研究で注目される「細胞老化の制御」を治療に応用したものだ。
臨床試験では、最高用量まで重大な副作用は確認されず、複数回投与でも安全性が保たれた。マイクロRNAを用いたがん治療薬として安全性が実証されたのは世界初とされ、老化制御技術が実際の医療に踏み出した象徴的な成果といえる。
悪性胸膜中皮腫はアスベスト曝露が主因で、治療選択肢が限られ予後も厳しい。国内患者数は2030年頃に年間約3千人へ達すると予測され、延命につながる新規治療の必要性は高まっている。
研究チームはベンチャー企業PURMX Therapeuticsと共同で2022~25年に国内3病院で試験を実施し、次段階として海外を含む国際治験体制の構築を進めている。
2023~2032年頃の承認申請を視野に入れる中、がん細胞の老化誘導というアプローチは、がん治療と老化研究の境界を越える新たな潮流を示している。細胞老化を「敵」として排除するだけでなく、状況に応じて治療に利用する発想は、長寿科学の発展とも響き合い、がんと老化の双方を理解することで生命の時間を延ばす可能性を広げつつある。
用語解説
【悪性胸膜中皮腫】
悪性胸膜中皮腫は、胸膜(肺を覆う膜)に発生する悪性腫瘍で、多くはアスベスト(石綿)を長期間吸入したことが原因となる。発症までに数十年かかることが多く、診断時には進行しているケースが多い。胸水の貯留や胸痛、息切れなどが主な症状で、治療選択肢は限られ予後も厳しい。希少がんである一方、アスベスト曝露者の高齢化に伴い患者数は増加傾向にあり、早期診断と新規治療の開発が重要な課題となっている。
アスベストが原因?悪性胸膜中皮腫の治療に光 広島大など安全性確認
出典:朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASV6P438LV6PPITB001M.html
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