アメリカでは、老化を遅らせたい人々を対象にしたウェルネス産業が急成長しており、ウェストハリウッドのNext Healthはその象徴的存在となっている。ここでは、全身MRIや詳細な血液検査を行い、個別のサプリメントや赤色光療法、ビタミン点滴、NAD+点滴などを提供しているが、顧客の多くは病人ではなく健康な人々である。
創業者シャー医師は「健康寿命を寿命に近づける」と語るが、提供される治療の多くは科学的根拠が乏しく、特にNAD+点滴は専門家から「お金の無駄」と批判されている。高気圧酸素療法やクリオセラピー、血漿交換なども宣伝されているが、効果の裏付けは弱く、むしろ高用量ビタミンC点滴が有害に働く可能性や、NAD+ががんに関与する可能性を示す研究も存在する。
こうしたモデルはオーストラリアでも模倣され、点滴クリニックや生物学的年齢テスト、未承認ペプチドの遠隔診療などを行う事業者が約100存在する。ペプチドは効果が証明されておらず副作用の懸念があり、ブラックマーケットでは汚染物質を含む製品も流通している。長寿産業はAHPRA(オーストラリア医療従事者規制機構)とTGA(治療用品局)の規制の狭間で活動できてしまう構造が問題となっている。
一方、実際の科学研究はクリニックの外で進んでおり、老化そのものを病気の根源と捉える「ジェロサイエンス」が注目されている。サンフランシスコ周辺はアンチエイジング研究の中心地で、Retro Biosciencesはサム・アルトマンの1億8千万ドルの投資で設立され、細胞内の老廃物処理機能(オートファジー)を若返らせる技術や、アルツハイマー薬の初のヒト試験を進めている。
Intervene Immuneは胸腺の再生による免疫システムの若返りを目指すが、がん増殖のリスクなど重大な懸念もある。さらに、ハーバード大学では細胞の生物学的年齢を巻き戻す部分的エピジェネティック・リプログラミングが人間で初めて試験されており、視神経の損傷による視力低下の改善を狙っている。
しかし、こうした最先端研究とは対照的に、多くの医師は「長寿の鍵はすでに分かっている」と指摘する。運動、社会的つながり、質の高い食事こそが細胞を若く保ち、カロリー制限と適切な栄養はがんや糖尿病、心血管疾患を予防する強力なエビデンスがある。サプリメントを大量に摂取しても科学的根拠は乏しく、むしろ生活習慣こそが長く健康に生きるための最も確実な方法だと結論づけられている。
こうした各方面の関係者による努力が良い方向へと進むかどうかは、それぞれの進展を慎重に追っていく必要がありそうだ。
Biohacking and anti-aging science are raising hopes of living longer. What’s hype and what shows promise?
出典:ABC News(Four Corners)
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用語解説
【クリオセラピー】
クリオセラピー(Cryotherapy)は、極低温(−110〜−140℃ほど)を短時間浴びることで体を刺激する治療・コンディショニング法。専用の低温チャンバーに1〜3分入ると、急激な冷却によって血流が変化し、炎症の軽減、筋肉疲労の回復、痛みの緩和などが期待されるとされる。ただし、科学的エビデンスは限定的で、効果は十分に確立されていない。皮膚の凍傷や循環器系への負担などのリスクもあり、医療的な利用には慎重さが求められる。
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